Hurley IA, Mueller RL, Dunn, KA, Schmidt EJ, Friedman M, Ho RK, Prince VE, Yang Z, Thomas MG and Coates MI. (2007).
・最も注目すべき点 核 DNA はデータが揃えにくいためかも知れませんが,mt ゲノムデータの年代推定解析においてすら,条鰭類 vs 肉鰭類の分岐を root node としていませんでした.それぞれ一段下がった派生的な分岐を root node として選んでいます.つまり,核 DNA の解析ではチョウザメ類 vs それ以外の条鰭類 (ポリプテルス類から核 DNA データは得られていません),mt ゲノムデータの解析では,ポリプテルス vs それ以外の条鰭類,の分岐をそれぞれ root node としています. 残念なことに,核 DNA データーは真骨類根幹のオステオグロッサム類が年代推定の解析には含まれておらず,他の分類群選定も非常に薄いです.このため,分類群選定が非常に密なミトコンドリアゲノムデータの解析結果と核 DNA 解析の結果を一概に比較することは,少し難しいように思えます.
・結論 はっきりとした理由は述べていませんが,ミトコンドリアゲノムデータに基づく下位条鰭類の解析では,樹形も推定年代もおかしい,という視点です.しかし,フグゲノムの解析から真骨類根幹で生じた全ゲノム重複の年代は 320-350 Mya (e.g., Vandepoele et al. 2004, Christoffels et al. 2004) と推定されています.この真骨類根幹の推定年代は mt ゲノム解析と一致しており,この点はうまく説明ができない,と述べています. 核遺伝子データで得られた推定年代は,ミトコンドリアゲノムデータで得られた値よりも若く,化石から直接推定された年代よりも古く推定されました.核遺伝子データの解析は,真骨類根幹で全ゲノム重複が生じているため,進化速度の変化やオーソログの問題など,疑問点がいくつか私にはあります.そして,Linder et al. (2005) が指摘しているように,年代推定の解析は分類群を密に撮るかどうかで,得られる推定値がかなり変化するという感触を私は持っています. Linder HP, Hardy CR, Rutschmann F フグゲノムの重複遺伝子に基づいて,真骨類根幹の分岐の直前に生じたとされる全ゲノム重複の年代が推定されています (350 Mya: Taylor et al., 2001, Christoffels et al., 2004; 320 Mya: Vandepoele et al., 2004) .これらの値は,ミトコンドリアゲノムデータに基づく真骨類根幹の分岐の推定年代 (ca. 268-326 Mya) とは近いものの,この論文で行われた核遺伝子データに基づく推定値 (真骨類根幹の分岐,ただし,Osteoglossomorpha が入っていないのであまり参考にはならない) はかなり下回っていました (ca. 181-265 Mya).さらに,この研究では核遺伝子データに基づいて,全ゲノム重複の年代を推定していますが (226-316 Mya),フグゲノムに基づく一連の研究で得られた推定年代よりも,若い年代が得られています. ミトコンドリアゲノムと核遺伝子データのそれぞれの解析で古めの値が得られたので,化石記録の見直しが必要であろう,と結論しています.
・データ †Discoserra は年代推定の制約には用いていません.系統解析の結果,†Discoserra はチョウザメ類と Neopterygii (ガーパイク,アミア,よりも派生的な条鰭類) の間に分岐したものの,Mimiidae や Stegotrachelidae など最古の条鰭類と考える魚群の部分化石 (耳石?) が Givetian/Eifelian 境界 (392 Mya) から知られているため,これらを年代推定の制約として用いています. †Brachydegma は現生種のうちアミアに最も近縁と推定されたので,年代推定の解析に制約として用いています.ただし,下位条鰭類 3 系統 (チョウザメ類,ガーパイク類,アミア) の系統関係は一致した見解がないので年代推定の解析には複数の樹形を採用しており,用いる樹形によっては†Brachydegma を制約として用いていません.
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